新潟在住の社会人宇宙ファンがH-IIAロケット48号機の打ち上げを見に種子島へ行ってきたお話。
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宙へ、願い届けて
前回のあらすじ
2024年1月11日(木)深夜 打ち上げを明日に控えるH-IIAロケット48号機の機体移動を見学&撮影しました。
さらに光学8号機のイラストも完成し、打ち上げ成功を祝う準備もOK。
これから打ち上げ当日の朝から打ち上げ10分前までの動きを記します。天気予報は曇り!
打ち上げを見よう! 打ち上げ当日朝~(2024年1月12日)
6:30すぎ 起床。もっと寝ていたかったが興奮のせいか身体が目覚めてしまった。長谷展望公園の芝生へ行ってみると、誰も場所取りをしていなかった。拍子抜けするくらい平和な朝だ。
空を見上げると、昨日は見られなかった厚い雲が空の半分を覆っている。
打ち上げ当日の朝。写真右上に金星が見える
射点がある東の空には一番星、つまり金星が浮かんでいた。きっといい1日になる。そんな気がした。
7:00 長谷展望公園の駐車場を撮影。
車中泊勢の車が十数台停車している程度で駐車場はガラガラ。歯を磨きながら朝日を待つ。
7:30 分厚い雲を昇り切った朝日が、種子島を照らす。
なんという神々しさだ…
日も出たことだし、朝のH-IIAを撮影しておこう。カメラに望遠レンズをセットして射点へ向ける。
気が付けば東の空は朱鷺色に染まっていた。
7:24 長谷展望公園から EOS90D 244mm F6.3 1/160s ISO800
朱鷺色のベールに包まれたH-IIAロケット48号機
7:35 長谷展望公園から EOS90D 600mm F6.3 1/320s ISO800
朝っぱらから一人ロケットを撮影していると、おじさんたちがやってきて「ロケット見える?」と声をかけてくれたのでしばし談笑。彼らは大阪や埼玉からきて、種子島で知り合ったそうな。みんな、遠くからよくきたものだ。
素敵な朝を堪能した後は宇宙ヶ丘公園へ向かう。目的はパノラマカメラのセットである。
8:10 10分ほどで宇宙ヶ丘公園に到着。さて射点の方角を見てみよう…とする私の視界に、テレメータ施設のパラボラアンテナが入った。
ヒエッ…
左:1月11日13:36撮影(どちらもトリミング済)右:1月12日8:20撮影
パラボラアンテナが、ロケットの方を向いている!!初めて見た!
そう、あのアンテナはロケットを追尾し、ロケットからの電波を受信するためにある。だからロケットを向いている…
頭では理解しているのだが、あのアンテナが真上を向いているところしか見たことが無かったのでかなり驚いた。
宇宙ヶ丘公園から第一射点にいるH-IIAロケットを撮影。
左:芝生エリアより撮影 右:展望台の屋上より撮影
8:30 宇宙ヶ丘公園から EOS90D 600mm F6.3 1/1600s ISO200
なるほど機体の下半分は山陰に隠れてしまうのな。
9時 打ち上げ5時間前の段階では宇宙ヶ丘公園に車・人影はまばらだ。パノラマカメラをセットし、後は撮影出来ていることを祈りつつ長谷展望公園へ戻る。
「情報収集衛星光学8号機 1月12日(金)」 「H3ロケット試験機2号機 2月15日(木)」
道中、打ち上げ予定の書かれたモニュメントを撮影。裏側には来月のH3ロケット打ち上げ予定も書かれていた。2つのロケットの記載があるのはけっこう珍しいかも?
9時半 打ち上げまでまだ4時間もあるので、朝にあったおじさんたちと談笑を再開。みんな遠くからはるばる打ち上げを見に来るだけあって、愉快な方たちでした。
談笑しつつロケットを撮影していると、そこに20kgはありそうな巨大なスーツケースを引っ張った学生さんがやってきて、大きな三脚、そしてカメラをセットし始めた。
その学生さんが私にロケットへの光の当たり方や使用レンズについて聞いてきたので、ロケット撮影ファン同士、情報交換をした。彼は撮影機材としてテレコンやらダットサイトを持っていた。すごい装備だ…
聞くと、彼は徒歩と公共交通機関、そしてタクシーで長谷展望公園までやってきたという。レンタカーは無し(マジかよ!)。宿はどうしたのかというと、野宿だという。なるほどスーツケースにはしっかりとキャンプグッズが入っていた。
すごい学生さんがいるもんだ、彼は将来立派になる、などと談笑した。
11時ごろの長谷展望公園の様子 まだ人は少な目。
10時半ごろ 学生さんがカメラを片付け始めたので何事かと聞くと、これから上里地区へ行き、そこで打ち上げを撮るのだという。
なんとまあ。
しかも徒歩で行くという。…あの巨大極まるスーツケースを引っ張って、数キロの道のりを歩くと。
よし、私が車で送ろう。私はレンタカーを持っているし、上里地区の場所も知っている。私がやらねば誰がやる。私の三脚と機材の一部をおじさんたちに見てもらい、私は学生さんと一緒にレンタカーへ。
車内で「H-IIAロケットはカッコいい。だけどH3ロケットはちょっと太いね」などと談笑しつつ上里地区へ。
上里地区へ行くと鹿児島県警の車両が止まっており、お巡りさんが路上駐車をしないよう見張っている様子だった。お巡りさんから「駐車されますか?」と聞かれたので「彼を下ろすだけです」と答え、彼とスーツケースを下ろす。
10:52 上里地区から EOS90D 484mm F6.3 1/1600s ISO200
ついでに私も上里地区から手持ちでロケットを撮影した。2枚だけ。
昼間のH-IIAロケットをほぼ正面から撮れた…実にいい写真だ。あの学生さんが居なければこの写真を撮ることは無かっただろう。
全く幸運だったな。彼も、そして私も。
去り際、彼が手を振ってくれた。お互い良い写真を撮ろうな。
長谷展望公園に戻っておじさんたちと合流。上里はどういう写真が撮れるのかと聞かれたので、撮った写真↑を見せると「お~」と喜んでいた。嬉しい!
12時 気が付けば打ち上げまであと1時間44分となった。H-IIBロケット7号機の時は打ち上げの1時間50分前に打ち上げ中止を知らされたから、一つ壁を超えた気分だ。だが、まだ打ち上げがあるかは分からない。
当時の心境だが、いたって冷静だ。心拍数は100程度(徒歩と同じくらいの心拍数)なのがその証拠。ちなみにランニング後の心拍数は150とかになる。
時間もあるし、やりたかったことをして過ごす。例えば…
推しのVtuber「宇推くりあ」ちゃんと推しのロケットの2ショットv('ω'v)。
推しのロケットアイドルVtuberとH-IIAロケットを一緒に撮影。たまらん2ショットだ!
この写真をTwitterに上げているとご本人に反応いただけた。嬉しい!
そんなことをしているとおじさん2人がニコニコで戻ってきた。何をしていたのか聞くと、屋台のうどんを食べていたそうだ。2人が閑古鳥が鳴く屋台の近くでうどんを食べているといつのまにか行列ができ、店主に感謝されたそうな。ほー!
うどんあるのか!食べたい!
行列に並び、1杯500円の暖かいうどんをゲットした。
左:38号機(2018.2.27) 右:48号機(2024.1.12)
38号機と同じ構図で撮影してみた。強い風が吹く中で食べる暖かいうどんはとてもおいしかった!
そうそう、種子島滞在中はとにかく風が強かった。毛糸の帽子じゃなかったら耳が冷えて大変だったと思う。空にはまだ雲が多くあるが、それでも日差しのおかげで暖かかった。
12:44 打ち上げ1時間前 振り向くと、いつの間にか大勢の見物人が芝生に座っていた。ついさっきまでおじさんたちと「あんまり人来ないね」などと話していたのがウソのようだ。
打ち上げ1時間前の長谷展望公園の様子
打ち上げ近し。ここで撮影に使うカメラについて紹介しよう。
今回、私は宇宙ヶ丘公園に設置したカメラを含め、全5台体制で撮影に臨んだ。
1:超望遠静止画:Canon「EOS 90D」+SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM Contemporary
2:超望遠動画:Panasonic 4Kビデオカメラ「HC-VX985M」…H-IIBF7用に購入
3:中望遠動画:Canon「EOS Kiss X5」+Canon EF-S 55-250mm …H-IIAF38で活躍
4:広角動画:スマホ
5:広角動画:パノラマカメラ@宇宙ヶ丘公園
1~4は長谷展望公園で使う。1人でカメラ4台。バカげてると思うかもしれないがマジである。
カメラの上にカメラを結合させ、三脚2台で組む。
あまりの異様な光景さゆえか、見学に来ていた打ち上げ関係者の母息子から「(この光景を)撮ってもいいですか!?」って言われましたw(もちろん快諾
聞くと、父親が種子島宇宙センターで打ち上げの責任者の一人をやっているそうで、熱心なファンがいた様子を見せるのだそうだ。ウケるwww
こんな調子で打ち上げを待っていると、打ち上げまであと30分に迫った。
・・・マジで?
Twitterを確認するが、打ち上げ中止の情報はない。これはもしかして、本当に打ち上がるのではないか。期待しすぎると中止になった時に心が折れるので「もしかしたら打ち上がるかも」程度に思っていたが…
脳がX-30分前と認識するや否や、心拍数は80から一気に120に上昇。
半信半疑で撮影準備をしていた心がざわつき始める。これは…
打ち上げ25分前。射点の周りで恒例の散水が始まった。
打ち上げ10分前になると、公園の仮設スピーカーからアナウンスが流れてきた。
「竹崎総合司令棟より、打ち上げ作業関係者に向けて、打ち上げ準備状況の報告をいたします。」
「H-IIAロケット48号機 打ち上げ最終実施判断の結果は"GO"です。」
頭がフリーズした。
飛ぶのか。本当に飛ぶのか。
夢にまで見た光景が本当にやってくるぞ、という緊迫感が思考を埋め尽くした。
CPU使用率100%の頭でカメラの録画ボタンを押す。
心拍数は140をマーク。過去最高にドキドキしてきた。
深呼吸をし、落ち着こう…と空を見上げると、そこには……
青空が広がっていた。
6年前のH-IIAロケット38号機打ち上げで見た、あの空。
6年前と同じ言葉を思った。「青空へ行ってこい!」
さっきまであった雲は風が運び去ったらしい。
さあ、舞台は整った。全神経を集中させ、H-IIAロケットの雄姿を、情報収集衛星 光学8号機の旅立ちを撮ろう。
次回「宙へ、願い届けて」