やまごんの未公開情報とか色々

宇宙関係の趣味記事をたまに書きます

【見学レポ】JAXA相模原キャンパス特別公開2019(後編)

前編は→コチラから
中編は→コチラから

2019年11月2日(土)に行われたJAXA相模原キャンパスの特別公開の見学レポの後編です。

後編では中編の続き、私自身が行った質問と回答、見学したブースの写真と雑感を紹介します。


見てきたもの


1:火星衛星探査計画(MMX)
2:超小型探査機OMOTENASHI
3:「はやぶさ2」のリュウグウ探査
4:木星探査: ひさき から JUICE へ (ミニ講演会を聴講)
5:深宇宙探査技術実証機DESTINY+
6:天文衛星と新しい衛星計画
7:エネルギーから宇宙を拓く
8:人工衛星の熱制御技術
9:小型月着陸機SLIM

中編・後編ではざっくり9種類のブースについて紹介。後編では上記6~9について取り上げます。


6:天文衛星と新しい衛星計画


X線天文衛星ひとみASTRO-H

星ひとみは2016年に、打ち上げから1ヶ月あまりで事故により失われた。本格的な運用前ではあったものの、目玉の観測装置である軟X線分光検出器SXSは、事故前にペルセウス座銀河団の観測を行っていた。その観測では、SXSが予想以上の分解能を達成していたことがわかっている。SXSによるペルセウス銀河団の観測結果についてのポスターがありました。


ひとみが観測した、ペルセウス銀河団の高温プラズマの観測結果について。

素晴らしい分解能でX線を分光し、わずかな観測でありながらその凄さを示したひとみのSXS。
ひとみの展示を見るととうしても悲しみと寂しさを感じてしまう。後続の代替衛星「XRISM」の開発がすぐに立ち上がり、2021年の打ち上げを目指しているのがせめてもの救いだ。

X線天文衛星ブースのスタッフに質問してみました。

Q:ひとみの代替機がすぐに立ち上がったのはどうしてですか?
A:ひとみは元々世界中から期待された衛星だった。そして事故を起こす前に、わずかながら観測ができて、いろんなことがわかった。ならば、もっと観測すればもっとわかる。だからあげましょう。というのがあったと思う。

代替のX線天文衛星XRISM(クリズム)は、2021年度打ち上げの予定。(小型月着陸実証機SLIMとの相乗り)

ひとみのポスターの向かいを見ると、これまでのX線天文衛星たちに搭載されていた機器がずらりと並んでいました。
どれも初めて見るものばかり。これはあすか、そしてぎんがの!こんなものが現存していたとは…興味深い。


過去の日本のX線天文衛星に搭載されていた機器

左から
・ぎんが(ASTRO-C)の大面積比例計数管LAC
・あすか(ASTRO-D)の撮像型蛍光比例計数管GIS
・あすかのスタートラッカー
・ひとみのプリコリメータ
・ひとみのフィルターホイール


ひとみのプリコリメータ(左)とSXS用フィルターホイール(右)


ひとみのプリコリメータの断面。この多層構造が肉眼で見られるとは!
アルミニウムの薄板が、バウムクーヘンのように同心円状の多層構造になっている。

プリコリメータは、視野外からのX線(迷光)を除去するために反射鏡のさらに外側に配置されてる遮光用レンズフードだそう。衛星すざくから採用され、ひとみにも搭載された。

ひとみの代替機、XRISM(クリズム)にもひとみのSXSの改良版、そしておそらくプリコリメータが搭載される。
XRISMにはひとみが見るはずだった星たちをたくさん見てほしいと思う。

赤外線天文衛星あかりASTRO-F

全天の赤外線地図の作成を主目的とした、日本初の本格的な赤外線天文衛星。
恒星や銀河、星雲の観測や、太陽系の小惑星の観測も行った衛星なのだが…

あかりが撮影した観測画像をまとめたポスターがありました。おー特別公開って感じ…ん?


あかりが見た宇宙。独特の美しさがある観測画像の数々が紹介されている。中でも驚いたのは右下に紹介されている"彗星"。

右下に、あかりが観測した…彗星の画像がある!?!?!!えっ…あかりちゃんって彗星も撮ってたんですか!?


あかりが見た"彗星"。綺麗に撮れている…感動です。

あかりが撮った銀河や星雲、小惑星の画像は見たことがありましたが、まさか彗星も撮っていたとは…初めて見ました。

あかりの後継機計画には日欧共同のSPICAがあり、現在は欧州宇宙機関(ESA)のMクラスミッション5号機の3つの候補の1つとして選定中。2021年にミッションの最終的な選定が行われる。

・赤外線位置天文観測衛星JASMINE(ジャスミン)

私にとって、突如現れた謎の天文衛星計画。今年に公募型小型3号機として選定されたのですが、それを知ったときは驚きました。Nano-JASMINEはどうした


小型JASMINEのポスター。

小型衛星JASMINEは、銀河系中心領域(バルジ)の星の位置や運動を正確に観測することを目的とした衛星。赤外線は塵に吸収されにくいので、銀河系中心の星を高精度で観測できるそうだ。
イプシロンロケットで打ち上げられるサイズの衛星で、打ち上げは2020年代の中ごろを予定。以下、質疑応答で出てくるJASMINEは小型(衛星)JASMINEについて。

Q:小型衛星JASMINEはどんなミッション?
A:可視光に近い赤外線の波長の観測装置で、銀河系中心を撮り続けるのがミッション。全天サーベイではない。地球は太陽の周りを回っているので、銀河系中心の(年周視差の)観測に適している期間が春と秋だけ(半年くらい)。夏と冬はぼーっと生きている。これだと、チコちゃんに叱られてしまう。なのでその間は何かしようということで、今話題の系外惑星の探査をする計画もある

小型の位置天文衛星ということですが、なんとJASMINEは、「系外惑星の探査」も行えるそうです。

Q:系外惑星の探査ってどういうことですか?
A(系外惑星探査分野の研究者の方でした): JASMINEは新しい系外惑星を発見しようとしている。ただやみくもに探すのではなく、JASMINEが狙うのは、複数惑星系。既に惑星が見つかっている系(恒星)を詳しく調べて、もう1つか2つ惑星がないかを調べる。そして発見したら終わりではなく、アメリカがそろそろJWST(NASAが開発中の大型宇宙望遠鏡)を打ち上げるので、JWSTでより精密な観測ができる。流れとしては、JASMINEで系外惑星や候補を見つけて、NASAJWSTで超詳しく調べる。バイオマーカー、生命がいるかもしれない証拠をJWSTで調べる。実際にできるかはわからないが、これから準備をしていく。
JWSTは口径が大きいので暗い星まで見えるが、分光観測ができるのは明るい星に限られる。JASMINEが系外惑星を見つけても、JWSTでは見えないかもしれない。なのでJWSTで見えるギリギリの明るい星周りの星をJASMINEで探す

系外惑星の分光観測ができるとかJWST凄すぎる…小さな衛星JASMINEと大きな衛星JWSTの協力が見られそうで楽しみです。)

また、JWSTのほかにもWFIRST(ダブリューファースト)という衛星との協力があるかもしれない。
JASMINEの打ち上げは2024年を予定。そして、アメリカのWFIRST(NASAが開発中の赤外線サーベイ宇宙望遠鏡)は、2025年に打ち上げを予定している。WFIRSTは打ち上げ後、JASMINEのように銀河系中心をめっちゃ調べて、重力マイクロレンズ法で系外惑星を探す。なので2機が同時期に銀河系中心を観測できる可能性がある。
JASMINEとWFIRSTが共同で観測すれば、1つの衛星ではわからない発見があるかも。


系外惑星探査に関わる方から興味深いお話を聞けました。小型JASMINEはメインの観測のほかに系外惑星の探査を行う計画があるということで、個人的に非常に興味がわくミッションだと感じました。日本も系外惑星の探査を行えるってすごく嬉しいです。
NASAJWSTとWFIRSTミッションによるフォローアップ観測も期待しちゃいます。


日本はWFIRSTへの参加を目指しているそうです。

 


7:人工衛星の熱制御技術


宇宙機の表面の"色の違い"についてのパネル展示が目に入ったので、「人工衛星の熱制御技術」の展示をみてきました。なかなか面白い発見がありました。


宇宙機の表面の色の違い。金色の宇宙機、黒色、銀色など。

Q:宇宙機の色の違いはなんですか?
A:はや2やあかつきの金色は、断熱材で、外側のフィルムが金色をしている。銀色の部分は熱を外へ逃がすラジエータ。一方のぞみ(PLANET-B)やかぐや(SELENE)の黒色は、塗料。ただの塗料じゃなくて、電気を通す塗料。機体が帯電してしまう軌道にいる衛星から、電気を外へ逃がす役目がある。断熱材で外部との熱の出入りを小さくし、内部の熱を出す機器は、ラジエータを使って排熱する。という役割がある。
探査機はやぶさには、ラジエータの進化版が搭載されている。

Q:進化版?
A:一般的な銀色のラジエータは、低い温度の時も熱を放射してしまうので宇宙機内部が冷えてしまう。低い温度(熱を外へ逃がしたくない時)でも熱を放射しようとする性質がある。そこでこのSRD(Smart Radiation Device)は、温度が低くなると放射率が小さくなる性質を持っている。この画期的なラジエータはやぶさは積んでいる。(これは初耳)さらに、SRDに薄膜を付けることでSRDによりも放射率の高い、ラジエータと同じくらいの放射率を持ったラジエータが実現できている。今後はいろんな課題を解決していって性能を高めていく。

Q:はやぶさはSRDを積んでいたんですか?
A:はい。はやぶさの写真のこの黒いところがSRD

放射率可変素子SRDについて。はやぶさの機体側面の黒い部分がSRD。

話を聞いて、はやぶさの黒いラジエータの謎が解けました。今まで知らなかったことを知ることができて大変うれしかったです。

ちなみにはやぶさ2にSRDが搭載されたのか、気になったので調べたところ、こちらの記事が見つかりました。

冷暖房不要、省エネの建材に 「はやぶさ」技術応用:朝日新聞デジタル(2014年11月17日)
https://www.asahi.com/articles/ASGC80RR5GC7UEHF01H.html
“この材料は特殊なマンガン酸化物でできており、SRDと呼ばれる。工学実験の一環として1号機の送信機に付けられた。同社によると「はやぶさ2」は1号機ほど温度差が激しくない軌道を通るので、はやぶさ2」への搭載は見送られたという。

SRDははやぶさ2には無いんですね。これはこれで新発見。

 


8:エネルギーから宇宙を拓く


展示を見たわけではありませんが、リーフレットに興味深いことが書かれていたので紹介。

相模原キャンパス特別公開2019 リーフレット
1-8 エネルギーから宇宙を拓く [PDF: 632KB]
http://www.isas.jaxa.jp/outreach/events/opencampus2019/leaflet/1-8.pdf


上記リーフレットの左下の写真とそのキャプション(画像:JAXA)

パンフレット左下に、衛星れいめい(INDEX 小型高機能科学衛星)の写真が写っていますよね。その写真のキャプションを読んでびっくり。

“打ち上げ前の「れいめい」衛星と搭載されたバッテリ -アシスト自転車用の電池を改良して使用-“

れいめいのバッテリーはアシスト自転車の民生品だった?!

小型科学「れいめい」衛星の開発と小型実用衛星の展望 齋藤 宏文, 平原 聖文, INDEX プロジェクトチーム
http://www.isas.jaxa.jp/home/saito_hirobumi_lab/_src/sc1012/8Dq8BF389F92888Aw89EF8BZ8Fp8FDC8EF38FDC98_95B6.pdf

調べてみると、“れいめいでは,将来にわたり小型衛星で使用可能な軽量バッテリを目指し,電動付自転車用の民生品薄型リチウムイオン二次電池を使用した.”
とあるように、れいめいのバッテリーは本当に電動アシスト自転車のものを使っているようです。(真空対策など、軌道上で使えるように改良が施されている。)

そういえば今年はれいめいの運用設備見学がありませんでした。2017年の運用設備見学では、相模原のアンテナによるれいめい衛星との通信の様子が見学でき、その時は「れいめいは現在、搭載リチウムイオンバッテリーのデータを取得して、バッテリの劣化の評価を継続して行っている」と説明がありましたが、まさか電動アシスト自転車のバッテリーだったとは。

れいめいの意外な一面を知ることができました。

ちなみにれいめいにもはやぶさと同じくSRDが搭載されています。


9:小型月着陸機SLIM


現在開発中の小型月着陸実証機「SLIM」。

特別公開の閉場まであと30分近くになったころ、SLIMのブースで特別公開最後の情報収集を実施しました。
SLIMの基本情報については、こちらの画像をご覧ください。

2019年9月に作成した際、SLIMに小型プローブの搭載が検討されていることを知りました。

ブースの真ん中にはSLIMの模型が鎮座していました。

SLIMの模型。2017年に見たのとはまた違っていて、新しい設計が反映されているようだ。

エンジン側から見たSLIM。2つのメインスラスタが印象的なデザインになっている。

よく見ると、着陸脚がある面と太陽電池が貼ってある面が平行になっておらず、若干の傾斜がある。(現地で会ったフォロワーさんからの情報。太陽電池の発電のためらしい)これは驚き!!機体のデザインは昨年8月の資料で見たのと同じのようだ。

ちなみに2017年に撮影したSLIMの模型はこんな感じ。

2017年の特別公開で撮影したSLIMの模型1 スケールは1/10

2017年の特別公開で撮影したSLIMの模型2

模型を見比べてみると全然違いますね…。
着陸レーダアンテナ(八角形の灰色のパネル)の形と数、着陸脚についている半球状の衝撃吸収材などは同じようですが、メインエンジンが1基から2基に増強され、併せて補助スラスタも8基から12基になっています。機体形状もガラッと変わった印象。

SLIMブースにはなんと、SLIMのプロジェクトマネージャーの坂井先生がいらっしゃっていたので、気になっていたSLIMの小型プローブの搭載の検討について質問してみました。

Q:これが現在のSLIMの姿ですか?(模型を見ながら)
A(以下、回答は坂井PM):
はい。もうここから変わらないと思う。これまでに打ち上げロケットの変更で大きな設計の見直しがあった。今はH-IIAロケットでXRISM(衛星ひとみの代替衛星)との相乗りで打ち上げる予定になっている。

Q:SLIMの開発は順調ですか?
A:おかげさまで。今は、JAXAことばでいうと「詳細設計」の段階。図面を引いて、開発モデルの試験を並行してやっている。フライトモデルの開発を来年度くらいから始めたいと思う。

Q:SLIMの関連資料に「小型プローブの搭載を検討」という記述があるのですが、こちらは今どんな状況ですか?
A:小型プローブは搭載できるかまだ見極められていない。結局のところ、SLIMの重量で決まる。最終的なSLIMの重量に余裕があれば載せられるし、余裕がなければ載せらない。ちょうどギリギリのところ。模型で言うと、ここにくっついている(丸いところ)。載せられるように設計はしているが、搭載の最終判断は、重量の見極めがついたところで決める。持っていきたいとは思う。


SLIMの機体についているこれが小型プローブ。

Q:丸いのはこれはカバーですか?
A:金色はMLIのカバー。ここにホッピングローバーみたいなのを載せたい。

少し調べてみたところ、こちらの資料を見つけたので、紹介します。
小惑星含む月惑星表面探査ローバに関する研究
http://www.isas.jaxa.jp/home/kougaku/03_report/30_senryaku/11_otsuki_senryaku30.pdf


SLIM搭載小型プローブの研究資料。小型プローブは外側の衝撃吸収材と内側のホッピング機構などで構成されるようだ。

Q:小型プローブはカメラを積む?
A:カメラを搭載する。小型プローブを開発しているチームはJAXAの中のSLIMとは別のチームで、我々としてすごく期待しているのは、あわよくば、着陸したSLIMを外から撮ってくれたらと思っている。

小型プローブに関する貴重な情報が得られました。感謝です。


SLIMの特に興味深い展示として、「画像照合航法」があったのでここで紹介。


画像照合航法の展示映像。左上のSLIMにも小型プローブがついているのが分かりますね。

SLIMは月面の撮影画像からクレーターを検出し、クレーターの地図と照合して「自身の位置」を割り出すことができる。さらに、撮影画像に写る月面の範囲から、「高度」もわかるとのこと。カメラ撮影で高度がわかる、確かに理屈はわかるが本当にできるとは。変態技術だなあ(褒めてる)

実際に撮影画像から地図上の位置を割り出す様子を、デモンストレーションで見せてくれました。

写真右側に掲げられている壁掛け月面地図を、カメラでリアルタイムに撮影したのが画面左の「撮影画像」。それを基に月面上の位置を示したのが画面右の「月面地図」。月面地図上に撮影画像の位置と範囲が映し出されている。撮影画像が動くと、それに応じて月面地図上の範囲も動く。

カメラの前に手を出して視界の一部をふさいでも、きちんと位置検出ができていました。クレーター数が10個検出できればギリギリ位置検出が可能とのことで、ロバスト性にも優れているようです。

そのほか、SLIMで気になったポスターを撮影。


SLIMの図解。新しい技術がたくさん盛り込まれています。




月を調べるSLIMのカメラについて。

SLIMは元々イプシロンロケットでの打ち上げの計画でしたが、X線天文衛星XRISMとの相乗りでH-IIAロケットによる打ち上げになりました。この変更により、SLIMの重量に余裕が生まれ、月を調べる観測装置にしっかり重量が割り当てられました。その観測装置の名はマルチバンドカメラMBC(←覚えて帰って!)
好きな方向を向けられて、いろんな場所でピントが合う、これまでになかったカメラとのこと。期待が膨らみます。

SLIMの打ち上げは2021年度を予定。



今回のJAXA相模原キャンパス特別公開は、1日開催ということもあって、気になるブースや講演会のすべてを見ることはできませんでしたが、新しい発見と新鮮な展示物の数々に出会うことができました。先生方を含むたくさんの方に質問することができ、またTwitterのフォロワーさんと会って交流できる機会にもなり、とても楽しかったです。次の開催があればまた参加したいです。

その時はまた。

前編は コチラから
中編はコチラから