前回はコチラ
旅行記(1)はコチラ
新潟在住の宇宙機ファンがH3ロケット試験機2号機の打ち上げを見に行ったお話。
前回は種子島上陸1,2日目の様子をまとめました。
今回はH3ロケット試験機2号機(H3TF2)の機体移動を見学&撮影します。
初めて見るH3ロケットは果たしてどんな姿なのだろう!
機体移動を見よう! 打ち上げ1日前(2024年2月16日)
大型ロケット組立棟(VAB)で組み立てられたロケットが、打ち上げ前にVABから射点へ移動する。それが「機体移動」だ。
ロケットの丘から見たVAB(左の建物)と射点(赤白の鉄塔)
H-IIA/IIBロケットの場合、機体移動は一般的に打ち上げの13~15時間前に行われる。しかしH3ロケットはその常識が通用しない。
・H3TF1:打ち上げは「午前10時37分55秒」機体移動は「前日16時00分~」
→機体移動は打ち上げの約18時間前 ※2月17日及び3月7日の打ち上げ共通。
・H3TF2:打ち上げは「午前9時22分55秒」機体移動は「前日15時00分~」
→機体移動は打ち上げの約18時間前
理由は不明だが、H3ロケットの機体移動は今のところ打ち上げの18時間前に行われるようだ。
なお機体移動の時間帯は記者説明会で事前に公表される。ただし政府のひみつ衛星(例:情報収集衛星)の打ち上げの場合、機体移動の時間帯は公表されないので注意が必要だ。
機体移動の見学場所はいくつかあるが、今回も(H-IIA F48の時と同じく)見晴らしのいい「ロケットの丘」に決定。場所を確保し、後はイラストの色塗りをしながら機体移動の時間を待った。
くりあちゃんの色塗りの様子
色塗りは数時間かかる作業なので、休憩がてらロケットの丘に顔を出す。アメリカ帰りのプロカメラマンの人とお話したり、VABを眺めたりしていると、ロケットの丘に青い服を着た男性が現れた。どこかで見た顔だな…
えっ、岡田PM!?
なんとH3ロケットのプロジェクトマネージャーの岡田さんがロケットの丘に来訪されたのです。岡田PM曰く、お昼休みに顔を出しに来たとのこと。
ロケットの丘にいた見学者はみんな大興奮。さらに岡田PMは快く記念撮影&サインに応じてくれました。
私はアメリカ帰りのプロカメラマンさんのカメラで岡田PMとプロカメラマンさんの2ショットを撮影。シャッター速度が遅く、白飛びしたのでシャッター速度を調整してさらに撮影。良い写真が撮れたと思う。これがカメラに詳しくない人だったら白飛び写真のままになってたかもしれない。自分のスキルが役立ってうれしかった。
ロケットの丘でサインを頂いた見学者の1枚。(撮影許可済み)
それにしても、岡田PMにお会いできるとは…私は手短に「応援しています。」と伝え、岡田PMと記念撮影&握手をしました。とても力強い握手でした。
岡田PMと私。H3TF2のいるVABを背景に。
岡田PMは見学者の方々に「みんなの応援が推進力です」「タイムスケジュールは順調です」と伝えると、風のように去っていきました。打ち上げまで24時間を切った中、こうして見学者にあいさつに来てくれるとは…暖かい心遣いに胸が熱くなりました。
その後ロケットの丘にいると、若い男性が私に声をかけてくれました。おや…どこかで見た顔だな。
なんとH-IIA F48の打ち上げ見学でお会いした「テント泊の学生さん」ではないか!さらには長谷展望公園で一緒に打ち上げを見た「打ち上げの常連っぽいおっちゃん」もいた!
驚くべきことに、学生さんもおっちゃんも私も本州に住む人間である。種子島在住の人ではない。なのにH-IIA F48の打ち上げから1ヶ月後、こうして種子島で再び相まみえるとは…物好き連中にもほどがあるだろう(笑)
そうこうしているうちに時は流れ、機体移動1時間前となった。くりあちゃんのイラストは無事完成。お昼ご飯は食べ逃した。
あとはH3ロケットの機体移動撮影に全力を尽くすだけだ。
撮影準備OK
私が持ってきた2台のキヤノン製カメラがVABを見つめる。
感慨深い光景だ。というのも、H3TF2にはキヤノン電子の衛星「CE-SAT-IE」が搭載されている。つまりキヤノンの衛星を載せたロケットを、キヤノンのカメラで撮るのだ。
私はカメラに「頑張ろうな」と声をかけた。
ずらりと並ぶ、見学者のカメラたち。
14:25 VABの扉が開いているのを確認。
←14時ごろのVAB →14:26ごろのVAB
上の2枚の写真、VABの右側を見比べると、扉が移動しているのが分かる。
(余談:VAB内では手前と奥側でロケットを2基組み立て可能。しかしH3ロケットは今のところ写真奥側のVAB-2のみで組み立てられる。)
14:58 機体移動開始まであと2分になった。
事ここに至っても、VABの中にH3ロケットがいるとの現実感は無かった。
さあ、機体移動が始まる。
ここからはロケットの写真を設定付きで公開します。特筆ない限りトリミングは無し。カメラのセンサはAPS-Cサイズ。焦点距離の換算はしていませんのでご注意ください。
15:00 機体移動スタート。
15:01 ゆっくりと、まずはH3ロケットを載せた移動発射台「ML5(Movable Launcher 5)」が姿を現す。
15:25 ロケットの丘から EOS90D 283mm F6.3 1/400s ISO200
白と青の鮮やかな柱が目に飛び込む。H-IIAロケットの移動発射台ではない。ありゃH3の移動発射台だ!
15:03 ロケットの丘から EOS90D 335mm F6.3 1/400s ISO200
おお…
H-IIAより太いコア機体、黄色い段間部、なめらかな曲面で構成されたフェアリング。
あれはH-IIAロケットではない──
15:05 ロケットの丘から EOS90D 347mm F6.3 1/400s ISO200
あれは─
H3ロケットだ!
移動発射台の把持機構がみえる
15:06 ロケットの丘から EOS90D 347mm F6.3 1/400s ISO200
移動発射台の2本の柱の間に、鉄骨でできた構造物が見える。あれは今回(H3TF2)からML5に初めて搭載された新機構「機体把持(はじ)装置」(把持機構とも)だ。写真では垂れ下がっている2本のアームが、使用時は「前ならえ」の状態になり、円形の空洞にH3ロケットを抱え込むのだ。ただし把持機構は主にH3ロケットにSRB3が4本ついた「H3-24L」形態の時に使用されるので、今回のH3-22S形態では使用されない。
いつか使用されているところを撮りたいものだ。
15:09 ロケットの丘から EOS90D 600mm F6.3 1/400s ISO200
フェアリングには「RTF」の文字。ああ、この機体はH3TF2なのだな、と認識させられる。
RTFは「Return To Flight(飛行再開フライト)」の意味がある。これが見られるのはRTFであるH3TF2限定だ。
ちなみにRTFの文字にはH3TF2の応援キャンペーンに寄せられた約3000件の応援メッセージが印字されている。私のメッセージもそこにある。
みんなの想いを載せて、H3ロケットは明日打ち上げられる。
15:15 ロケットの丘から EOS90D 347mm F6.3 1/400s ISO200
フェアリングには「JAXA」のロゴと「H3 JAPAN」の文字もある。
JAXAのロゴが撮れてホッとする。というのも、私はJAXAのロゴは今後H3ロケットから無くなってしまうと予想しているからだ。見学記(1)にも書いたが、H3ロケットは現在JAXAが打ち上げ業務を行っているものの、将来的には三菱重工に移管される。H-IIA/Bでは三菱重工への移管とともにロケットからJAXAのロゴはなくなり、代わりにスリーダイヤが貼られるようになった。
つまりH3ロケットもいずれJAXAのロゴがなくなり、機体のどこかに三菱重工のスリーダイヤが記される可能性が高い、というわけだ。
15:13 ロケットの丘から EOS90D 150mm F6.3 1/400s ISO400
H3ロケットの旅立ちの舞台、第2射点が近づいてきた。
ゆっくり、しかし着実に機体移動は進む。
15:15 ロケットの丘から EOS90D 347mm F6.3 1/400s ISO200
丘の切れ目から移動発射台の全容が見えるようになった。
移動発射台の下では2台の運搬車「ドーリー」が移動発射台とH3TF2を運んでいる。
地上をめいいっぱいズーム+トリミング。運搬車には「DOLLY-2」と書かれている
地上では30人近い人たちがロケットに寄り添っている。人と比べてH3ロケットのなんと巨大なことよ…
機体移動開始から20分。H3TF2は赤白の鉄塔の間に進入。
15:21 ロケットの丘から EOS90D 293mm F6.3 1/400s ISO200
そして、機体移動開始から25分。H3ロケットは射点に到着した。
射点に到着したH3ロケット
15:25 ロケットの丘から EOS90D 302mm F6.3 1/250s ISO200
機体移動にかかった時間はH-IIAロケットもH3ロケットも25分だった。
私はカメラを片付けた後、呆然と射点を見つめる。
撮影に夢中で今まで意識していなかったが、私がH3ロケットを見るのはこれが初めてだ。これまでCC画像や写真、動画でしか見てこなかった、かつて「新型基幹ロケット」と呼んでいたものが今「そこにいる」。
しかも機体移動を終えて明日のフライトを待っている。
現実とは思えない光景に思わず「やべぇな、機体移動しちゃったよ」と声が漏れる。
この後は宇宙センターや南種子町の各所でH3ロケットを撮影した。以下に作例として紹介する。
①ロケットの丘
上記。
②中型射点(へ続く坂道)
16:15 中型射点の坂道 EOS90D 150mm F6.3 1/400s ISO200
16:15 中型射点の坂道 EOS90D 600mm F6.3 1/400s ISO200
中型射点は種子島のロケットを一番近くで見られる場所。コア機体(中央の太いやつ)の「JAPAN」の文字がよく見える。ちなみにH-IIA/Bロケットまでは「NIPPON」表記だったが、H3ロケットからは「世界を舞台にして活躍し、世界中の⼈たちに使ってもらいたい」という思いを込めて「JAPAN」に変わっている。
宇推くりあ氏のネップリ(デビュー1ヶ月記念)とH3ロケットの2ショット
中型射点からくりあ氏(リスペクト呼び)とH3を一緒に撮影。くりあ氏は現在H3ロケットの応援サポーターをしている。3年前には想像もしなかったことだ。
③第4光学入口
16:44 第4光学入口 EOS90D 275mm F7.1 1/800s ISO200
ロケットの丘からだとH3ロケットの機体の一部が赤白の鉄塔に隠れてしまうが、ここなら隠れることなく機体が見られる。ここは射点の南南西に位置している為光線状態は良好。
④竹崎射点
17:08 竹崎射点 EOS90D 211mm F7.1 1/400s ISO200
17:04 竹崎射点 EOS90D 516mm F7.1 1/500s ISO200
竹崎射点はH3ロケットを真横から見られる場所。駐車場も撮影可能エリアも広く、機体移動見学におすすめの場所だ。
なおこれまで紹介した撮影場所は全てロケットから3km圏内にあるので、打ち上げ時には例外なく立ち入り禁止になります。
ファインダー越しに見るH3ロケット
⑤上里地区
17:36 上里地区路上 EOS90D 150mm F7.1 1/250s ISO200
17:36 上里地区路上 EOS90D 600mm F6.3 1/320s ISO200
ここら辺はH3ロケットを正面から撮影できるスポット。駐車スペースが限られているので見学の際は注意。なお各所への撮影はH-IIAF48で出会った学生さんと一緒に行った。
⑥長谷展望公園
18:24 長谷展望公園 EOS90D 600mm F6.3 1/20s ISO3200
日が暮れてきたので、長谷展望公園で今日のラストショットを撮影。学生さんを長谷の滞在場所に送り、私とIさんは西之表の宿へ帰還。お腹空いた~
20時過ぎに宿に到着したが、車の後部座席に見慣れぬスマホがあった。Iさんのものではないという。とすれば…学生さんの忘れ物だ。
すぐに送り届けねば!
急きょお使いミッションが発生。Iさんを宿に残し、私はお昼も夕飯も食べずに急いで車を走らせ、片道30分かけて学生さんの滞在場所へ向かう。私は忘れ物をしたときの辛さ、心細さはよく知っている。
その後無事に学生さんと再会し、スマホを手渡しできた時は心底ホッとした。
時刻は20時40分。明日の打ち上げを前に早く寝たかったのだが、予定通りにはいかないものである。とはいえ学生さんを責める気は全くない。忘れ物は辛いからね。
ただ、もっと早く、忘れ物に気がついてあげられたらと思う…心細かったろう。後悔が頭の中を支配する。くそっ。くそっ!くそっ!!
もうヤケだ。早寝プランは放棄して、夜のH3ロケットを撮影してやろう。これくらいの役得がなくちゃね!
空腹とふがいなさで若干キレつつロケットを撮影。
○上里地区
←150mm F5.0 1/4s ISO400 600mm F6.3 1/20s ISO3200→
18:24 上里地区 EOS90D
「H3ロケット 試験機2号機 2024/2/16 22:41」(トリミング・微修正後)
闇に包まれるH3ロケットはとても美しかった。
これが撮れたのは学生さんの忘れ物のおかげと考えよう。
それにしても今日は岡田PMに会い、機体移動を撮り、あちこちでロケットを撮影し、種子島を何度も縦断…てんやわんやの1日だった。
さあ、明日は打ち上げだ。
次回「みんなの想い、天空へ」