後編は→コチラ
2019年5月25日(土)に葛飾区 郷土と天文の博物館で行われた「第103回星の講演会 火星衛星サンプルリターン計画(JAXA MMX計画) ―はやぶさ2の次にくるもの―」に参加してきました。
現在プロジェクト化を目指して開発研究が進行している「MMX」に関する新鮮な情報がいくつもあったので、その内容を皆さんに紹介します。長くなったので前後編に分かれています。会場での写真撮影は行っていないため、資料としていくつか補足画像を交えていきます。
このブロマガ記事を見に来てくれた方々なら、MMXについて大体のことは知っていると思います。もしMMXについて興味はあるがあまり知らない、という方がいましたら、ぜひコチラの動画をご覧ください。
今から1年前に作った、火星衛星探査計画MMXの概要を学べる5分ちょっとの嘘字幕動画です。視聴推奨。
それではまいりましょう
講演会当日の夕方、葛飾区 郷土と天文の博物館に到着。
プラネタリウムを鑑賞後、講演会参加者の受付へ行くとすでに長い列ができていました。参加者は小学生くらいの子から高齢者の方まで幅広い年齢層の方々でしたが、半分くらいが年配者~高齢者でした。
定員140人のところ、25人前後の当日参加も可能とのこと。
自分は予約済みだったので受付を済ませて講演会会場であるプラネタリウムへ。
参加者に配られたパンフレット。
講師の先生は玄田 英典(げんだ ひでのり)氏。東京工業大学地球生命研究所の准教授で、火星衛星の成り立ちに関する研究などを行っているほか、MMXではサイエンスの重要事項を決めるメンバーの中心的な役割を果たしているとのこと。
(MMXプロジェクト化の暁にはMMXのプロジェクトサイエンティストになっているかも!?)
午後7時ちょうど、プラネタリウムの中で講演会がスタート。ドームに投影されたスライドを見ながら、玄田先生のお話を聴きました。
玄田先生が火星の衛星について知り、研究を始めたのは、今から7年前(2012年)のこと。(※2014年かも?)
その2年後、JAXAが火星の衛星に探査機を送り込むことを知る。
火星衛星の研究というのは火星本体と比べたらかなりのマイナーだが、研究していくうちに、火星衛星は非常に面白く、第一級のサイエンスを創出できる天体ということがわかってきた。
火星の衛星フォボスとダイモス(ディモス)は非常に小さな天体。ここにJAXAは探査機を送り込む。2024年打ち上げで2029年に地球へ帰還する5年の旅。2025年から2028年の3年間、火星に滞在する。火星も観測する。
■今日のプログラムについて概略説明
なぜ日本は火星衛星に行くことに決めたのか、火星衛星は何が面白いのか、MMXの次の探査はどうなるのか(日本の戦略)、これから20,30年後の探査についてお話しする。
■本題に入る前に講師の自己紹介
玄田先生の専門は惑星科学と太陽系探査立案。
惑星科学:惑星がどのように作られ、どのように進化したのか 惑星の成り立ちの解明を目指す
太陽系探査立案:どの天体に探査機を送り、何をするのが面白いか 科学成果の最大化を図る
上記の研究の関係で、玄田先生はサイエンスZERO(Eテレ)への出演経験がある。
番組名:サイエンスZERO 「惑星誕生!ジャイアントインパクト」(2016年2月)
スタジオ収録では2mの近さから女優さんを眺めることができ、収録後、女優さんの肌がきれいだったということをカミさんにとうとうと話したら2週間口きいてくれなくなったそうです(笑)ちなみにギャラは3万円。これはノーベル賞受賞者も紅白出演者も同じ額らしい。再放送で+3万円振り込まれたとか。
(講演では笑えるネタがいくつも含まれていたので、会場が非常に和やかなムードになりました。)
・火星探査機のぞみ(2003年 火星周回軌道投入失敗)
・小惑星探査機はやぶさ(2010年 地球帰還)
・月探査機かぐや(2009年 計画落下)
・金星探査機あかつき(2015年 金星周回軌道投入成功)
・小惑星探査機はやぶさ2(2020年 帰還予定)
過去、日本はいくつか太陽系の探査を行っている。
(それぞれの探査機について説明がありました。)
探査終了後、探査機は(電波を止める措置を行ったり、)計画的に落下させたりしている。これは制御不能になった探査機が落下して被害が出るのを防ぐため。将来、我々が月へ旅行に行くようになったとき、かぐやの落下地点は間違いなく観光名所になると思う。
はやぶさは探査中にいくつも困難があって、映画が3本作られた。はやぶさ2は順調すぎて映画が作られることはないだろう。
MMXの工学の人に「(MMXに)エラーが出るようなかんじに仕組んでくれないか」と言ったらめちゃめちゃ怒られた(笑)。
だいたい4,5年に1回は太陽系の探査が行われている。次はMMX。
2 MMX計画の概要 & 3 なぜちっぽけな火星衛星をめざすのか
なぜ火星の衛星に行くのか。Why Japanese people?! ←というネタを国際会議でもやったが受けなかった(笑)。
まず、火星の衛星は非常に小さい。地球の月の質量は地球の80分の1だが、フォボスは火星質量の5千万分の1。火星と比べたらゴミみたいに小さい。
火星の衛星フォボスとダイモス フォボスの直径は22.2kmでダイモスは12.6km
画像:NASA(Mars Facts)
実は科学の世界でも似た扱い。フォボスとダイモス(ディモス)に関する論文数は1673編。一方火星の論文は49565編!火星の衛星はマイナー中のマイナーなのだ。
だが、論文数を天体の質量で割ってあげると…
フォボス : 火星 = 10^11 : 10^5 ←フォボスめっちゃ多い!!
ということでJAXAは火星衛星を目指す…というのは冗談。
ではなんで火星の衛星を目指すのか。サイエンスとして何が面白いのか。
それは
火星の衛星がどうやってできたか、全くわかってないから。これが面白い。
火星衛星の成り立ちは、2つの説がある。
遠くからやってきた小さな星が捕獲された「捕獲説」と、
大きめの天体が火星にぶつかって、ばらばらになった破片が集まってできた「衝突説」。
そもそもなんで火星衛星の起源がわかるとうれしいのか。月を例にみてみよう。
かつてアメリカはアポロ計画で人類を月に送った。これだけでもすごいことだが、サイエンスとしても非常に面白いことだった。アポロ計画によって、月の石が400kgほど地球に持ち帰られたが、この月の石を調べることで、月のことも地球のこともわかった。
アポロ15号のミッションで月から持ち帰られた「ジェネシス・ロック/創世記の石」。約45億年前の岩石と推定され、斜長石に富んでいる。画像:NASA
月の白い石には、斜長石という石がたくさん含まれている。この石ができるためには月がドロドロに溶けたマグマオーシャンになって、それが冷える必要がある。その過程で白い石が生まれる。つまり月の石から、かつて月がドロドロに溶けていたことがわかった。
さらに月に地震計を設置して、月の地震、「月震」を調べた。月震を調べることで月の内部構造がわかるのだが、これにより、月の中心には鉄でできた核が無い(めちゃくちゃ小さい)ことがわかった。
こうしていくつかの分析結果がもたらされた結果、月の成り立ちの一説として「ジャイアントインパクト説」が誕生。現状これが一番有力な説となっている。
太古の地球に大きな天体が衝突し、ドロドロに溶けた破片が円盤のように地球の周りを回り、やがて鉄などの重い物質は地球に落下し、石などの軽い物質からなるマグマが集まって月ができた…というシナリオが、月の石を持ち帰ったことで明らかになった。
さらに地球の年齢も月の石の分析でわかった。なぜ月から地球の年齢がわかったのか。実は地球上には約45億年より古い岩石が見つからなかったので、地球の年齢は45億年より古いだろうと思われていたが、月の石の年代測定から45億年という数字が出たことで、地球の年齢も45億歳だということがわかった。
惑星の衛星を調べることで、惑星本体の成り立ちがわかる。これとおんなじことが火星でもあるかもしれない。アポロでは月と地球のことがわかったが、MMXでは火星衛星と火星のことが分かるかもしれないのだ。
さらに火星で起きたことが火星衛星でも起きた可能性がある。火星に落ちた隕石がフォボス・デイモスにもぶつかっているかもしれない。火星の衛星には火星の歴史が刻まれている。
いわずもがな、火星衛星の試料は大変貴重なもの。サンプルリターンが成功すれば、捕獲説であれ衝突説であれ、火星の外からやってきた物質が手に入る。そして衝突説の場合、火星本体の物質もばらまかれてそれが衛星になっているので、火星本体の試料も手に入る。
ちっぽけな火星の衛星が、非常に重要なサイエンスのカギを握っているのだ。
だから日本は火星の衛星を探査する計画を立てている。これがサイエンス的な側面。
火星の衛星フォボスに接近するMMX探査機の想像図(旧イメージ?) 画像:JAXA
実は探査機ってこういうことがやりたい!といっても、技術的に難しいこともたくさんあるので、工学の、エンジニアリングの壁もある。
本当は、我々は火星の本体を探査したい。火星に着陸して、地球外生命探査を行いたい。研究者としてやっぱり夢がある。でも今回は火星の衛星に行くことになった。
これには工学の壁があって、1つめに日本は重力の強い天体、火星とか月に探査機を着陸させた経験がない。これについては、2年後に月に探査機を送ってピンポイントで着陸させる「SLIM(スリム)」計画がある。これを経験すれば重力天体への着陸ができるようになる。2つ目の壁は、日本は火星圏の探査を行った経験がないということ。探査機のぞみは火星に向かったが失敗してしまった。
本当は火星本体に行きたいのだけれど、2つの壁を同時にクリアするのが難しいので、火星本体ではなく火星圏に探査機を送り込もうと。重力天体への着陸の実証はSLIMにまかせて、我々は火星圏、火星衛星に行き、せっかくなら日本のお家芸であるサンプルリターンをしよう。MMXは火星圏探査とサンプルリターンが組み合わさっている。そういう意味で、MMXは日本の将来の火星生命探査にとって重要な一歩になる。成功させないといけない。
そして、大人の事情というものもある。
JAXAはNASAやESAに比べて予算が10分の1しかない。つまり…宇宙探査の機会も10分の1しかない。一方日本には複数の科学コミュニティがある。月へ行きたいコミュニティも、小惑星、火星に行きたいコミュニティもある。そしてこの3つのコミュニティは、みんな仲が悪い(笑)。予算がないので俺も俺もって言いあっている状態。
しかしながら、火星の衛星はすべてを満足できる。火星衛星は火星の月。月コミュニティの方どうぞ!小さい星&捕獲説だったら小惑星なので小惑星コミュニティの方どうぞ!火星の観測もしますよ! となる。火星衛星は月要素も小惑星要素も火星要素も全部入っているのだ。
つまり、MMXは各コミュニティが一致団結できる唯一の計画といっても過言ではない。
(月要素はあんまりなさそうだけど月にはSLIMがついてるから、多少はね)
■火星に着いた時のミッションについて
・フォボス、ダイモス、火星のリモセン観測
・フォボスに着陸(2回)
・サンプルを採取(10g以上)
火星の衛星フォボスとダイモス、あと火星のリモセン観測を行う。そしてフォボスかダイモスに着陸するが、ほぼほぼフォボスに着陸することが決まっている。ほぼほぼフォボス。
フォボス表面は、地表の色が赤い領域と青い領域の2種類がある。MMX探査機は赤と青のそれぞれの領域に着陸し、表面のサンプルを10グラム以上採取してくる予定。
ダイモスへは着陸はせず、接近観測のみを行う予定。
■観測装置について
・カメラ TL/WAM(現TENGOO/OROCHI)
・ガンマ線・中性子分光計 MEGANE
・近赤外分光計 MacrOmega
・ダスト検出器 CMDM
・イオン質量分析計 MSA
・レーザ測距計 LIDAR
+オプション機器(ローバー)
MMX探査機のカメラ(TENGOO/OROCHI)は、立教大学の亀田先生が開発の中心を担っている。(亀田先生ははやぶさ2の光学航法カメラONCの開発・着陸運用にも関わっている)https://www.rikkyo.ac.jp/news/2019/02/mknpps000000szf5.html
カメダ先生がカメラを作っている。覚えやすい(笑)。
また、海外の観測装置も搭載される。赤字の観測装置がそう。
ガンマ線・中性子分光計MEGANE(メガネ)はNASAが提供してくれる。MEGANEは中性子・ガンマ線を計測し、表面の科学組成を分析する。MEGANEの名前は日本のメガネから。
近赤外分光計MacrOmega(マクロオメガ)はフランスが提供してくれる。
ちなみにMacrOmegaの責任者は「ジャン・ピエール・ビブリン」というフランス人教授。
3年前、玄田先生が主催するMMXのサイエンスの会議でお会いしたことがあるそうです。
ジャン・ピエール・ビブリン教授。画像:ESA
(この方はマーズ・エクスプレスやロゼッタ、はやぶさ2のMASCOTの観測装置にも深くかかわるスゴイ先生。)
どこかで見覚えのある顔に見えますよね。玄田先生曰く、「アインシュタインにめっちゃ似てる!」画像判定を試したところ、人工知能は「同一人物である」と判断した(笑)。
ほかにも、欧州からは観測装置のほかに探査ローバーの提供が検討されている。
MMXは日本のミッションでありながら、海外と一緒に協力しておこなうミッションでもある。
前編はここまでです。
後編では、火星の衛星と巨大衝突説、NASAをギャフンと言わせるMMXのサイエンス、将来の探査戦略と、質疑応答の内容を紹介します。お楽しみに。
後編はコチラ